ハトムギは精米に比べて2倍以上ものたんぱく質や、約8倍もの食物繊維を含み、そのほかにも脂質やカルシウム、鉄分、ビタミンB1、ビタミンB2などを豊富に含みます。

ハトムギとは?
  • ●基本情報
    ハトムギは、中国南部やインドシナ半島などの南アジアを原産とするイネ科ジュズダマ属の植物で、茎の高さは約1~1.5mにまで成長します。ハトムギという名前は、鳩が好んで身を食べたことから明治以降に名付けられたといわれています。
    ハトムギの殻を除いて乾燥したものは、「ヨクイニン」と呼ばれ、生薬として用います。ヨクイニンは体の余分な水分を排出する働きがあるため、むくみや下痢などに用いられてきました。
    ハトムギは精米に比べて2倍以上ものたんぱく質や、約8倍もの食物繊維を含み、そのほかにも脂質やカルシウム、鉄、ビタミンB1、ビタミンB2などを豊富に含んでいます。体に必要な栄養素を豊富に含んでいるため、健康維持に働きかけます。
    また、ハトムギは古くから胃腸の調子を整え、胃もたれや食欲不振を抑える効果が知られており、薬膳料理では代謝[※1]を高めて毒素を排出するものとして利用されています。さらに、民間療法では美肌の維持や利尿作用の効果が期待され、化粧品やお茶などに利用されています。

    ●ハトムギの歴史
    ハトムギの栽培は、インド北東部のアッサム地方からミャンマー付近にかけて始まったといわれています。インダス文明期の詩節「リグ・ヴェーダ」の中に、ハトムギの記載があることから、紀元前1500年頃には、すでにインドでハトムギの栽培が広まっていたのではないかと考えられています。
    中国へ伝わったのはそれから1500年後、後漢時代の名将である馬援が持ち帰ったといわれています。6世紀の書物には、中国ではハトムギを米のように炊いて食べたり、粉状にして団子のように食されていたことが記されています。
    滋養強壮に効果があるとして重宝されたハトムギは、「ヨクイニン」の名前で約2000年前に記された司馬遷の「史記」にも記述があります。
    また、中国の古書「神農本草経」には、「久しく服すれば、補虚、益気、軽身などの効果がある」という記述が残っています。
    日本に伝わったのは江戸時代で、学者・貝原益軒は病気の後や出産後の体力回復にハトムギを処方していたといわれています。
    ハトムギは薬用植物として栽培されており、『民間薬用植物誌』には、①根を煎じて通経剤とする、②身を煎じて利尿・健胃剤とする、③脾臓を丈夫にし、胃を強くし、食欲を増進する、④脚気にもよく効く、⑤のどがはれて痛む時には粉を吹き込むとよい、などの効用が記されています。
    明治時代以前までは1反歩(約1000平方メートル)で、4石(約180ℓ)もの収穫があったことから、四石麦(しこくむぎ)とも呼ばれ、飢饉の時には非常用食糧として活用されていました。
    1884年頃になると、当時の厚生省がハトムギを保健食[※2]として推奨し、近年ではハトムギの様々な健康効果に注目が集まっています。

    ●ハトムギの摂取方法
    ハトムギは、殻を取り除いて煎じたハトムギ茶として一般的に利用されていますが、最近では、手軽に飲めるティーバッグ入りのものもあります。ハトムギの摂取量は、1日当たりを約15g~30gを目安に煎じたものを、1日3回に分けて飲むと良いといわれています。
    また、ハトムギの種を砕いて糖化した「ハトムギ糖」という甘味料もあり、甘味料でありながらハトムギの栄養成分を、ほぼそのまま摂取できるため、砂糖より栄養価が高くなります。
    最近では、ハトムギをご飯に混ぜて炊いたり、お菓子の材料に用いるなど、日常生活の様々な場面で活用されています。
    ただし、胎児や乳児に影響を与える可能性があるため、妊婦および授乳中は摂取を控える必要があります。

    ●ハトムギの働き
    ハトムギは、良質なアミノ酸を多く含み、新陳代謝を活発にする働きを持ちます。新陳代謝とは、細胞の生まれ変わりのことです。ハトムギは、肌の古い角質を取り除き、新しい肌細胞を生み出すため美肌に効果的です。
    そのほかにも、ハトムギには胃を丈夫にしたり、免疫力を高める効果があります。
    ハトムギの種子であるヨクイニンは、体の熱を取り除く時には炒らずに用いられ、下痢を止める時には炒ったものが用いられます。
    さらに、リウマチや神経痛などの鎮痛にも用いられ、最近では日焼けやシミ、そばかすなどの改善効果も期待されています。

    <豆知識①>イボ取りに効果的なハトムギ
    ハトムギには、体にできたイボを取るのに効果的だといわれています。特に若い世代に多い青年性イボや中年以降に多く見られる老人性の堅いイボに効果が期待されています。
    これは、ハトムギに含まれるコイケノライドによって腫瘍が抑制されるためだといわれています。
    イボ取りにはハトムギを少し濃い目に煎じたお茶や、皮をむいたハトムギを混ぜて炊いたお粥が効果的だといわれています。

    <豆知識②>ハトムギの育て方
    ハトムギの種は5月中旬から下旬、平均気温が15度以上の時に蒔かれ、約130日の生育期間の後、収穫されます。茎の高さは1~1.5mにもなり、開花しながら実をつくり、ハトムギ1株から約500粒もの実が収穫できます。ハトムギは、干ばつに弱いため、水の管理を細やかにしなければなりません。
    特に、穂が出始めてから成熟期(7月下旬~9月下旬)にかけては降水量が減少するため、水やりには注意が必要です。ハトムギの穂が出てから約60日後、実の70~80%が茶褐色になった頃が刈り取りの目安です。

    [※1:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
    [※2:保健食とは、健康維持のために必要な栄養素を含んだ食品です。]

    ●デトックス効果
    余分な水分や便秘は、老廃物を蓄積させ血液の循環を滞らせるため、むくみや冷え、肩こりや疲れを引き起こします。
    ​ハトムギには、大腸まで届いて便の量を増やす食物繊維が豊富に含まれています。
    また、ハトムギには、尿の排出を促進する効果があり、むくみ、脚気(かっけ)、腎臓、膀胱結石 [※3]などの改善も期待できます。
    ハトムギには、余分な水分や便の排出を促進し、毒素を排出するデトックス効果があります。

    ●美肌効果
    ハトムギを煎じたお茶は、古くから美肌に良いお茶として知られており、ニキビなどの肌トラブルを改善したり、肌荒れを抑制し、滑らかな肌に導く効果が期待されています。
    ハトムギに含まれるコイクセラノイドには、肌の角質代謝を高める働きがあるといわれています。
    また、ハトムギに含まれているたんぱく質は良質なアミノ酸で出来ており、新陳代謝を促進する働きがあるため、肌の細胞の生まれ変わりを促進します。
    さらに、体内の老廃物を排出する効果を持つため、ニキビやシミ、そばかすを抑制し、内側から肌の美しさに働きかけます。【1】【2】【5】

    ●生活習慣病の予防・改善効果
    ハトムギには、脂肪の代謝を促進する成分として9-ヒドロキシ-オクタデカン酸(9-hydroxy-(10E,12E)-octadecadienoic acid)が含まれており、肥満を抑制するはたらきを持ちます。また細胞へのグルコースの取り込みを促進することにより、糖尿病を予防するはたらきも報告されており、生活習慣病予防の素材として注目されています。【3】【4】

    ●アレルギーを抑制する効果
    ハトムギには、アレルギーを引き起こす物質ヒスタミンを抑制するはたらきが報告されており、花粉症予防に役立つと考えています。また炎症物質TNF-αを抑制するはたらきを持つため、アレルギー予防効果も期待されています。【6】

    ●胃の健康を保つ効果
    ハトムギには、胃の健康を保つ効果があります。
    水分を補給すると、一度胃に溜められて、胃から少しずつ十二指腸、小腸、大腸へと送られて吸収されます。水分を補給しすぎると、胃の中に大量に溜まってしまいます。すると、過剰な水が胃に負担をかけて、胃液を薄めることで消化不良を引き起こします。
    ハトムギは体内の余分な水分を排出するため、胃の健康を保つ効果があります。

    [※3:膀胱結石とは、腎臓から下りてきた結石が膀胱にたまる病気です。]